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堕とされた母 佐知子

堕とされた母
-2-

翌朝。
いつものように登校した裕樹だが、
妙に肩に力が入っていたりする。
それは、裕樹なりの決意と覚悟の表れであった。
裕樹の背を押すのは、母から受け取った想いだ。
『今度は、ママも黙っちゃいないんだから』
『相手が誰だろうと、関係ない』
昨夜、母が見せてくれた、真剣な怒り。
……ちょっと、泣きそうになるくらい嬉しかった。
ママだけは、
なにがあろうと自分の味方でいてくれるのだ、と。
しかし、だからこそ、母には、
これ以上の心配をかけたくはない。
自分自身で、対処していかなくてはならない……。
(……いつまでもママに守られてばかりじゃ…
 僕もママを守れるようにならなきゃ……)
裕樹にとって、幼い頃から崇拝の対象であり続けた、
優しくて綺麗なママ。
性徴期を迎えて、
性的な欲望が母に向かったのも裕樹にとっては、
ごく当たり前のなりゆきで。
(そして、ママはそれに応えてくれた……)
昨夜も味わった、
母の柔らかな肉体の感触を思い出して、
裕樹は体が熱くなるのを感じた。
相姦の関係が出来てから、
裕樹の母への傾倒は深まるばかりだった。
このままの母との生活が続くこと、
それだけが裕樹の願いだ。
(……そのためにも、もっと強くならなくちゃな)
彼なりに真剣に、裕樹は誓っていたのである。
そして、そんな裕樹の決意は、
さっそく試されることとなった。
「やあやあ、コシノくん」
教室の前で、裕樹を呼びとめた、ふざけた声。
高本だった。目の前に立って、裕樹を見下ろす。
頭ひとつ以上も裕樹よりは大きいから、
見下ろすという表現に誇張はない。
長身にみあったガッシリとした肉づき、
不精ヒゲを生やしたイカツイ顔だちと、
とにかく中学生には見えない。
高本は、ニヤニヤと笑いながら、
裕樹に掌を差し出す。
「……なに?」
「なに、じゃねえよ。
 昨日、預けたろうが。俺のタバコ」
「……没収されたよ。見てただろ?」
「没収だあ? そりゃあねえや、
 まだほとんど残ってたのによ」
「……………」
「越野、おまえ預かっておいて、
 そりゃあ無責任じゃないの?どうしてくれるのよ」
昨日までの裕樹なら、
弁償するといって金を差し出して、
とっとと終わりにしているところだったが。
「…知らないよ」
「……ああ?」
「あ、預けたって、
 無理やり押しつけただけじゃないか」
目を合わせることは出来なかったが、
とにかくも裕樹は、そう言ってのけた。
周囲に居合わせた生徒たちが、
息をのむ気配があった。
「なに、越野。それ、なんかのネタ?」
ヘラヘラとした高本の口調に物騒な成分が混ざる。
「あんまり、面白くねえなあ、それ」
ズイと、身を乗り出してくる高本。
裕樹は、グッと拳を握りしめて、
その場に踏みとどまった。
(殴られたって) だが、その時、
「おいっ、高本」 後ろから掛けられた声に、
ひとまず裕樹は救われる。
現れたのは、高本と同じく、
宇崎達也の取り巻きの市村という生徒だった。
「あ、市やん、ちょっと聞いてよ。
 こいつ、越野がさあ」
「んなことは、どうでもいい」
急ぎ足に近づいてきた市村は、高本の言葉を遮って、
「達也が入院したってさ」
「えっ? 宇崎クンが?」
意外な報せに、
本当に裕樹のことなど、どうでもよくなる。
「なんで? 昨日は元気だったじゃん?」
「なんか怪我したらしい。
 今さっき、ケータイに連絡入った」
「マジで?」
「俺、今から様子見にいくけど」
「あ、いくいく、俺も!」
素早く話をまとめて、
始業前だということにもお構いなく、
無論、裕樹のことなど完全にうっちゃって、
高本と市村は去っていった。
それを、茫然と見送った裕樹。
「越野、やるなあ」
「見直したぜ」
あたりにたむろしていた連中に、
そんな声を掛けられて、我にかえった。
「別に……どうってことないよ」
務めてクールに返して、
自分の席についた裕樹だったが、
どうにも口元が緩んでしまう。
まあ、結果的に、
宇崎達也の負傷・入院というニュースに
救われたかたちではあったが。
とにかくも、
高本の脅しに屈することなく、
自分の意志を通したのだ。
(……よしっ!)
この小さな一歩をスタートにしようと、
裕樹は思いを新たにした。
教室内には、
宇崎の入院の情報が伝聞式に
広がって話題になっていた。
あまり、同情や心配をする雰囲気はなかった。
少数の宇崎シンパの女子が大袈裟に騒いでいるのが、
周囲からは浮いていた。
無論、裕樹もクラスの多数派と同じ心情であった。
直接、なにかされたことはないが…というより、
まともに会話したこともないが、
宇崎に対して、好意を抱く理由は、ひとつもない。
悪いようだが…これで、
しばらく宇崎が休むなら、
せいせいするとまで思ってしまう。
(……高本も市村も、慌てちゃってさ)
ボスの一大事に、
すわとばかりに馳せ参じていった
奴等のことを思い出して、哂う。
この朝、裕樹は、さまざまな理由で愉快だった。
いけすかない同級生を見舞ったアクシデント。
その“他人事”が、
裕樹にとっても大きな運命の分れ目であることなど、
この時点では知るよしもなかったから……。
そして、同じ頃。
出勤した佐知子もまた、そうとは知らぬうちに、
運命の岐路に近づいていたのだった。
夜勤の看護婦との引継ぎで、
「…特別室に?」
昨夜、
担ぎこまれた急患が特別病室に入ったという報告に、
佐知子は眉を寄せた。
年若な部下が手渡したカルテに、
素早く目を通していく。
一分の隙もなく制服を着こなし、
キリリと引き締めた表情でカルテを読む姿には、
熟練のナースとしての貫禄が漂う。
ここでの佐知子の肩書きは主任看護婦。
婦長や院長からも全幅の信頼を受けて、
現場を取り仕切る立場であった。
……この、理知的な美貌に気品さえ感じさせる女性が、
昨夜も息子との禁断の情事をもっていたなどとは、
誰も想像も出来ないだろう。
「……左足の骨折と、右腕の挫傷…?」
習慣的に、まず症状記録を目に入れて、
これなら特別病室を使うほどのこともないのでは?
と訝しく思った佐知子だったが。
患者の氏名を確認して、その疑問は氷解した。
「宇崎…達也?」
「そうなんです」
越野主任の驚きの、本当の理由は知らないまま、
若い看護婦はしきりにうなずいた。
「もう、昨夜はちょっとした騒ぎで……治療には、
 院長先生もわざわざ立会われましたし。
 それで、看護は越野主任におまかせするようにって、
 婦長が…」
「そう……了解したわ」
引継ぎを終えた佐知子は、ナース・ルームを出て、
特別病室へと向かった。
その名の通りの部屋。
若い看護婦たちの間では、
“スウィート・ルーム”
という符牒で呼ばれているというのが、
その性質を表しているだろう。
この市内最大規模の私立病院の、
経営方針を物語ってもいる。
その部分では、
いまだに佐知子は抵抗を感じるのだが。
高い給与という恩恵にあずかっているから、
文句を言える立場でもない。
エレベーターで五階へ。フロアは静かである。
一般の病室は、二~四階にあるから、
この階には患者や付き添い人の姿はない。
特別病室の最大のウリは部屋の広さや贅沢な設備より、
この隔絶性にあるのかもしれない。
過去に入室していた患者も、
社会的な地位のあるものばかりであった。
宇崎達也は、これまでで最年少の患者だろう。
(……宇崎達也か。こういうのも
 “噂をすれば影”って言うのかしら?)
人気のない廊下を歩みながら、
佐知子はにひとりごちた。
息子の裕樹から、その存在を教えられたのが、
つい昨晩なのだ。
あまり、良い印象は持てない伝聞であったが。
無論、“それはそれ”だ。
看護婦としての務めとは全く関係のないことだと、
わざわざ自分に言い聞かせるまでもなく、
佐知子の中で分別はついている。
病室の前に立つ。
プレートの氏名を確かめながら、ドアをノック。
はい、と、室内から落ち着いた応え。
「失礼します」
……その邂逅が齎すものを、今は知るはずもなく。
佐知子は、静かにドアを開けて、入室した。
……数時間後。
「マジで、ありえねえよ、宇崎クン。
 中学生のくせにバイクで事故ってケガするなんてさ」
高本の大声が、病室に響く。
「カッコイイんだかワルいんだか、
 判断苦しむもの、それ」
「カッコよくは、ないだろ」
ベッド脇に山と詰まれた見舞い品の中から、
果物を物色しながら、市村が口を挟んだ。
「うるせえよ。
 それに俺はバイクで事故たんじゃなくて
 ちょっと転んで怪我をしただけだ」
起こしたベッドに背をもたれた宇崎達也が、
そらっとぼけた。
いまのこの部屋の主である若者は、
パジャマ姿で、左足首をギブスで固め、
袖を捲くり上げた右肘に包帯を巻いている。
「表向きはそういうことになってんだから、
 間違えるなよ。だいたい、
 中学生がバイクなんか乗りまわすわけがないだろが」
「クク……、たしかに宇崎クンは優等生だからなあ。
 ヒンコーホーセイって、やつ?」
ぬけぬけとした宇崎の言葉に、高本が笑う。
市村は籠から取った林檎を弄びながら、
窓の外を眺めている。
この高級な病室に集まった三人は、
外見や雰囲気はバラバラだが、
とても中学生には見えないという点が共通していた。
宇崎も市村も、高本ほどではないが長身である。
なにより、顔立ちや言動に、
子供らしさというものがなかった。
「……それより」
市村が、宇崎に顔を向けて口を開いた。
この痩身の、
特徴のない容貌の少年は宇崎達也とは
小学生の頃からの友人で、高本と比べて、
達也への接し方に遠慮がない。
「なんで、時間をおいて来いって?」
時刻は、もうすぐ正午になろうという頃だった。
朝のうちに学校を抜け出たふたりの来訪が、
この時間になったのは、
達也からの再度の電話で、
昼まで待てと言われたからだった。
足止めをくった二人は、
繁華街をブラついて時間を潰してきたのだった。
「ああ。午前中は、
 親父の関係の見舞いが
 押しかけるって予測できたからな」
そう言って、
見舞いの花束や果物籠の山に皮肉な目を向ける。
「まったく。
 ガキの機嫌をとって、どうしようってんだか」
冷笑を浮かべると、
彫りの深い秀麗な顔立ちだけに、
ひどく酷薄な相になった。
このメンツ以外には、決して見せない表情だ。
つい先ほどまで、その見舞い客たちに対しても、
いかにも御曹司らしい
礼儀正しさで接していたのだから。
「でも、思ったよりケガが軽くてよかったよね。
これなら、わりと早く出られるでしょ?」
「まあ、そうなんだけどな…」
高本の問いかけに、達也は思わせぶりな間をおいて、
「……この際、少しゆっくりしようかと思って」
「なんで? つまんねーじゃん、
 こんなとこにいたってさあ」
意外な達也の言葉に、驚く高本。
市村も、探るような眼を達也に向ける。
達也は、ニヤニヤと邪まな笑みを浮かべていたが。
ノックの音に、スッと表情を変えた。
「はい。どうぞ」
柔らかな声で応答する達也。
そしてドアが開くのと同時に高本と市村へと向かって、
突如熱っぽい口調で語りはじめる。
「だから、午後からは、ちゃんと授業に出ろよ?」
「は?」
「そりゃあ、心配して駆けつけてくれたのは、
 嬉しいけどさ」
「え? はあ?」
やおら真剣な顔になって、
まったく似つかわしくもない正論をふるう達也に、
目を白黒させる高本だったが。
「……わかったよ。午後の授業には出るから」
「いいっ!?」
市村までが、気持ちしおらしい声で、
そんなことを言い出すに及んでは、
完全に絶句して、
ただ不気味そうにふたりを見やるだけ。
うん、と宇崎達也は満足げにうなずいて。
ドアのところに立って、
わずかに困惑したていで少年たちのやりとりを
眺めていた看護婦―佐知子に向き直った。
「すみません。食事ですね?」
「え、ええ」
佐知子は、
ひとりぶんの昼食を乗せたワゴンを押して、
ベッドに近づけた。
備え付けのテーブルをセットする。
手馴れた動きで準備を整える佐知子に、
三人の視線が集まる。
佐知子は、務めてそれを意識しないようにしながら、
手早く作業を終えて、
食事のトレーをテーブルに移した。
「ありがとう」 
達也が微笑を佐知子に向ける。
「あ、こいつらは僕の友人で、市村と高本」
「どうも」
高本の名を聞いた時、
佐知子の表情が微かに動いたが。
ペコリと、市村に頭を下げられて、
無言で目礼をかえした。
「僕のことを心配して、
 学校を抜けてきちゃったらしいんです。
 すぐに戻るって言ってるから、見逃して」
悪戯っぽく笑って、達也が言った。
……無邪気な笑顔に見えるんだから、
美形は得だよな。
そう、市村は内心に呟く。
佐知子は戸惑うように、
達也の笑顔から目を逸らしながら、うなずいた。
「……なにか、変わりはありませんか?」
「うん。大丈夫です」
事務的な口調で、佐知子が尋ねるのにも、
達也はあくまでも笑顔で答える。
「…なにかありましたら、呼んでください」
佐知子は最後まで生硬な態度を崩さずに、
そう言い置いて部屋を出て行った。
白衣に包まれた、
グラマラスな後ろ姿がドアの向こうに消えるのを、
三人はそれぞれの表情で見送る。
達也は微笑を浮かべて。
市村は無表情に。
高本は、いまだ要領を得ない顔で。
完全に佐知子の気配が遠ざかってから、
達也はふたりへと向いた。
「どうよ?」
そう訊いた口調も表情も、
ガラリと変わって、奸悪なものになっている。
「どうよ、って、なにが?つーか、
 俺が聞きたいよ!なんなの、いまのは?」
堰を切って、疑問をぶつける高本。
「宇崎クンも、市やんも、
 いきなりワケのわかんないこと言い出してさあ」
「うーん、アドリブが弱いよな、高本は」
「なんだよ、それ!?」
「その点、浩次はさすがだね」
「…あれくらい出来なきゃ、
 達也とは付きあってらんないよ」
「あー、イラつく! ふたりだけで解っちゃって」
「だから。どうだった? いまの女」
「いまの? 看護婦? ……乳、デカかった」
「ちゃんと、見てんじゃないかよ」
「ケツも、こうバーンと張ってて。
 それに白衣っつーのが、また…」
佐知子の肢体を思い出しながら、
熱っぽく言葉をつらねて。
そして、
ようやく得心がいった表情になる高本。
「……そういうこと?」
「そういうことだよ」 
ニンマリと笑って、達也がうなずいた。
「ふーん……けっこう年増だね」
「熟れたのは、嫌いだっけ? 高本くんは」
「いえいえお好きですよう。
 いいじゃない熟女ナース!その響きだけで、
 グッとくるもの」
「フフ……浩次はどうだよ?」
「面白いね。顔も体もいいし」
「お。いつになく、積極的じゃないか?」
いいんじゃない、
くらいの返答を予想していた達也は、
意外そうに見た。
「だって、あれ、
 うちのクラスの越野の母親だろ?」
「越野の?マジで?」 大仰に驚く高本。
「名前見て、ピンとこなかったのかよ?」
「名前?どこに?」
市村は、呆れ顔で高本を見やり、
自分の左胸を指差して、
「ここに。名札つけてたろう。おまえ、
 乳のデカさはしっかり観察しといて、
 気づかなかったのかよ」
「あ、そうだった? いや、ほら、
 あくまで大きさや形を見てるわけでさ。
 字とかは、ね」
「字とかって……もう、いいよ」
だが、その後の達也の言葉に、
市村はまた嘆息することになる。
「ふーん……うちのクラスに、
 越野なんてヤツ、いたんだ」
「……これだよ。まあ、予測してたけど」
興味のない相手には、
石ころほどの注意もはらわない達也である。
「小坊みたいなチビだよ、宇崎クン」
「高本が、しょっちゅうイジメてるヤツだよ。
 ほら、昨日も」
「……ああ、わかった。なんとなく」
実際、
“なんとなく…あいつかなあ”
くらいにしか思い出せなかったが。
いまは、その正確さが問題でもないから、
達也は適当にうなずいて、
「で、あの女が、その越野の母親だって? 
 間違いないのか?」
「多分ね。確か、看護婦だったし。
 そうある苗字でもないだろ」
「うーむ……、あの越野に、
 あんな色っぽい母ちゃんがいたとは。
 越野のくせに!」
わけのわからない理屈で、
勝手に憤っている高本は放置。
「……それでか。最初に会った時から、
 妙に態度が固かったんだ、あの女」
「まあ、いろいろ息子から聞いてるのかもね。
 だとしたら、俺たちには、
 いい印象はもってないだろうな」
「ああ、越野って、いかにもマザコンくせえもん。
 “またイジメられたよう、ママン”
 とか泣きついてそう。
 …あのデカい胸に? うらやましいぞ、
 このヤローッ!」
「……………まあ、マザコンってのは、あるかもな。
 確か、父親は亡くなってて、
 母ひとり子ひとりってやつだから」
「え? じゃあ、未亡人ってやつなの? 
あの、ムチムチ母ちゃん」
「確か、そうだった」
「…てか、なんで市やん、
 そんなに詳しいのよ? 越野の家のことなんかさ」
「どっかで聞いたっつーか、小耳にはさんだ」
「そんだけで?」
「浩次は、どうでもいいようなこと、
 よく覚えてるからなあ。ガキの頃から」
「まあね」
「あ、でも、今回は役に立ったじゃん。越野情報」
「役に立つっていうか、
 おさえといた方が楽しめるだろ?せっかく、
 こんなおいしいシチュなんだから」
「まったくだ」
達也が深くうなずいて。
少年たちは、悪辣な笑みを交し合った。
「ちょっといい女だから、
 入院中のヒマつぶしくらいの
 つもりだったんだけどな。
 こうなりゃ、俺も本気で攻略にかかっちゃうよ」
「おお、宇崎クン、燃えてるよ。
 こりゃ、越野ママ、中学生の肉便所、確定?」
「なにを言っているんだ、高本くん。
 僕は、寂しい御婦人を慰めようとしてるだけだよ。
 しかも、クラスメイトのお母さんを
 肉便所にだなんて……肉奴隷くらいにしときたまえ」
「おお、優しい」
「……越野も、気の毒に…」
しみじみとした市村の呟きに、
ゲラゲラと笑いが弾けた。
「……さて。じゃあ、君たちは学校へ戻りたまえ。
 僕も食事を済ませないと」
また、真面目くさった表情を作って、達也が言った。
思いの他に、謀議が長引いて、
佐知子が運んできた昼食には、
まだ手もつけていない。
無論、いまさら学校へ戻る気などさらさらないが、
達也の芝居に合わせるために、市村たちは腰を上げた。
「ああ、でもなあ……」 
未練げな声を上げたのは、高本だ。
「今回は、“口説きモード”で、いくんだろ? 
 だから、こんなサル芝居してるんだよね?」
「まあな」
「そっちのほうが、面白いじゃん」
「そりゃあ、わかるんだけどさあ……
 俺たちに、まわってくるまで、
だいぶ時間かかるよなあ。
 辛抱たまらんよ」
「テキトーに誰かで処理しとけよ……ああ、そうだ」
達也は、ふと思いついたふうに、
「なんなら、百合絵つかってもいいぞ」
「マジで!? いいの!?」
「好きにしろ。あいつなら、
 越野ママをヤる時の予行演習にも丁度いいだろ」
鷹揚に言って、ようやく食事にとりかかる達也。
「……市やん…」 
うかがいをたてるように、市村を見る高本。
どうやら、達也の見せた気前のよさは、
よほどのことであるようだ。
「…それだけ本気ってことだろ」 
そう言いながら、市村も驚きは隠せない。
「ちぇっ。すっかり、冷めてやがる」 
スープをひとくち飲んで、達也が舌打ちする。
言葉とは裏腹に、やたらと上機嫌だった。

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